第十六章 内緒の話
目の前のその人は、まだ私の唇を噛んでいる。同じく、私も全く動くつもりがない。
……
….…
鳥が飛んでいく音が聞こえる。
「もごもご」
「ん?」
唇はまだ相手の口に含まれているから、うまく喋れなかった。このボスは変なことをして楽しんでいるなぁ。
「おんあ、うっおおうあいあうあ?(今夜は、ずっとこうしていますか?)」
目を開いて、飽きもせず、まだ私の唇を含み続けるその人を見つめた。その美しい人はちょっと私に視線を合わせて、ゆっくりと唇を離した。サムさんの唾液が、今私の唇を満たしている。
「あんたの唇、口に含みたい」
「噛みたいんじゃなかったんですか?」
「噛むとあんたが痛いでしょ? 口に含んだ方がいいと思うの」
「どっちも構いませんが、私がサムさんの鼻を噛んだのは数秒だけです。でも、サムさんは私を噛んでから、長い時間そのままでいましたね」
「時間を数える必要あるのかしら……ほんのちょっと触れただけなのに、うるさいなぁ」サムさんは頬を膨らませた。「でも、あんたの唇は小さいね」
「私の口が可愛いって、ノップも言ってました」
サムさんは一瞬、黙って何も言わなかった。それから、すぐに私に背中を見せた。
「寝る」
「私、何か良くないこと言いましたか?」
「いいえ」
「ノップの話は嫌ですか?」
「……」
「どうしてですか?」