第三十一章 罵倒
ようやく、サムさんが何を求めていたのか謎が解けた。でも、解決したからといって、落ち着く訳じゃない……そう、ダーリンって呼べば呼ぶほど、私はいじめられちゃうから。
悪い気持ちはしない。彼女が頬を膨らませて、ふくれっ面をしていても、そんな彼女を笑顔にさせたくて「ダーリン」って呼んじゃう。でも、たったそれだけで、全てが私の思った通りに動いていく。私はサムさんの弱点を、ちゃんと理解できたみたい。
相変わらず私達の恋は、秘密のまま。そう……サムさんには、まだ婚約者がいるから。私にとっては、気分があまりよくない話だけど、別れを急かすようなことはしていない。だって、幼馴染で、自分の彼氏という存在に別れたいって伝えるのが簡単なことじゃないって、よく分かるから。
でも……もう少しで一触即発という話があるみたい。みんなはフェイスブックで起きている戦争のことを忘れてないかな?
ロナウド・ゴーマイヨーク: おい、俺のコメントに毎回「ひどい」の顔を押すなよ。来い。殴ってやる。@I’m your Boss 僕はあなたの上司だよ
「ひどい」のリアクションをつけることが、なぜそこまでカークさんという大人の上司を怒らせれしまうのか、私には全く理解できない。でもそんなコメントにサムさんも負けじと反応している。
I’m your Boss 僕はあなたの上司だよ:喧嘩売ってるの?いいよ。ウンチ投げる、ウンチ投げる、ウンチ投げる、ウンチ投げる。
カークさんはそのコメントに何もリアクションしなかった。それで自分の勝利を確信したサムさんは、テストで一番になった子どもが両親に報告する時みたいに、両手をあげて見せびらかしてきた。
「わー! 本当に効いたわ! ウンチ投げるって言っただけで、もうコイツ消えちゃった。あはは!」
その日のうちに、サムさんにはSNSの運営会社からアカウント名を実名に変更するように、と通知が届いて、本人確認のための身分証の提出まで求められていた。だから、三日後再びSNSに戻ってきたサムさんのアカウントは実名に変更されていた。でも、プロフィール写真だけは、あの犯人のような画像をそのまま使っている。
どうしよう……これで私へ頻繁にコメントしている人がサムさんだって、カークさんを含めみんなが知っちゃうはず。間も無くしてイケメンの上司は私へ個人的なメッセージを送ってきた。メッセージで声が聞こえる訳じゃないのに、本人がどれだけ不安で怖がっているのかが、ヒシヒシと伝わってくる。
ロナウド・ゴーマイヨーク: モン、僕が毎日喧嘩していた人はサムって、どうして教えてくれなかったの?