第四十四章 別れ
「ティーは給料をいくら出すのかしら」
「二万バーツです。本採用になれば、二千バーツ上がります」
「うちの会社のときより多いね。でも、あんたはあたしの恋人なんだから、もっと高く払うべきだわ」
サムさんはテレビを見ながら、ペラペラと喋っている。甘い顔のその人は、まだ結婚のことを話してくれない。私も特に問いただすようなことはしないけれど、胸の内で期待している……サムさんが私に何か教えてくれるんじゃないかって……。
「どうかした? 今日、あんたぼーっとしているわね」
「そうですか?」
「うん、なんか気が抜けているみたい」
「ちょっと考えることがあって」
「仕事のことでしょ? そんなにストレスなんだったら、行かなくていいじゃん。家にいていいわ。あたしが養ってあげる」
「私はいつまで、この家にいられるのかな」私の目は、まだテレビから離れていない。でも、サムさんは、私の方へチラッと目線を動かした。もちろん……私は目の端でその様子に気がついている。
「好きなだけ長く居ていいのよ」
「もし、いつかサムさんに家族ができたら?」
「あんたは、あたしの家族だよ」
そう聞くと、私の心臓はドキドキと走り出す。そう話した人へ、私は目を合わせた。サムさんの行動は、全然ロマンチックじゃない。でも、思いもよらない言葉を聞いて、もう気持ちがよくなっちゃった。
「そう言ってもらえて、幸せです」少し顔を傾けて、その人のほっぺたに優しくキスをした。でも、サムさんはそれだけじゃ足りなかったみたい。勝ち気なその人は、両手で私の顔を押さえて、もっと貪ろうと口付けた。「私は、軽いキスをしただけなのに」
「キスは全ての始まりだわ」
「本当に、サムさんってそういうことが好きですよね」
「二階に行こう」
私は少し鼻に噛み付いて、すぐ答えた。
「はい」
「あんたも好きでしょ?」