第四十六章 ヌンさん
ヌンさんは、私の手を引っ張って、一緒に歩かせようとした。それから、私達はおばあ様の前に出て向き合った。おばあ様は雷に打たれたかのような様子で、一番上の孫娘を見ている。何も感じていないような無表情ではあったけど、その目だけは、感情を隠せずにいるらしい。年を重ねたその人の瞳から、どんなにヌンさんのことを心配していたかがひしひしと伝わってくる。
「ヌンさん」カークさんはおどおどしながら呼びかけた。「戻られたんですか?」
「私達、仲よかったっけ?」ヌンさんは、挨拶をしたそのカッコいい人をジロリと見て、口を尖らせた。「あなたのことは昔から知っている。けど、気に入らない。まず名前が嫌い……なんでカークっていうの?」
ヌンさんは本当にその呼び名に納得していないみたい。
「ここに来たってことは、戻ってきたのよね」次におばあ様が話し始めた。ヌンさんは少し眉を上げて、挑むように肩をすくめた。
「ええ、ここに来ましたよ……でも、戻ってきた訳じゃありません。お城の全てが、何も変わっていませんね。家も、人も」
「どこに行っていたの?」
「あっちこっちに。こんな翼がついている人生ですし」
「すごく幸せそうね」
「おばあ様と一緒に、このお城に住むことと比べると、毎日がかけがえないくらいに幸せですね」気を遣わない言葉を話すヌンさんは、小さな身体のこの年配の女性を鋭い眼差しで見つめている。「私がいなくなると、おばあ様はいつも代わりになる新しい人形を探していますね。人の心を支配することに、飽きませんか?」
「ヌンさん……」サムさんは二人が喧嘩にならないように、お姉さんの方へ向かっていった。でも、当のお姉さんは手を振って断り、仏のような静かな圧をかけてそれを止めた。