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ロイヤル・ピン|第二十二章 簪で髪を留める【限定公開】



第二十二章

簪で髪を留める*


「私、ピランティタは、アニン王女ただ一人のものであると誓います……」


 何のしがらみにも囚われず、その言葉は甘い声で囁かれた為、発言者の真意は簡単に伝わった。でも、それを伝えられた側である私、私の脳は、その事象を簡単に処理することは出来なかった。

 今、私の耳にまではっきりと聞こえる私自身の心臓の鼓動。お腹の中はまるで沢山の蝶々らが羽ばたいているかのように浮力を感じていて落ち着かない。いつも肌身離さず持っていた理性という概念は雲の中へと消えていき、代わりに言葉に出来ないほどの幸福感が舞い降りてくる。

 もし、二週間前にピンさんから言われた『私たち二人は……どうやってそんな風に愛し合うのですか』という言葉が、私の心を蝕み不調へ陥れる毒だったとしたのなら、先ほどの言葉は、そんな私がかかった毒を一気に掻き消す、生命の息吹を感じさせるような命の水と呼べるのではないだろうか。

 私の人生において……あんなに単純で短いピンさんの言葉より甘ったるい言葉なんてもう無いであろう。


「ピランティタ……って誰の何でしたっけ」


 私は私の胸で蹲る人の顎に手を添え、引き上げると、互いに目を見つめ合うようにする。私の目に映り込むその瞳は、今までのような不安で揺れ動く不確かなものではなく、自信と誠意で満ち溢れ、他の想いなど入り込む余地は無い。


「私は……アニンのもの」


「……」


「ずっとアニンのものでした」 それを聞くなり、光の反射のように笑みをこぼした。愛という概念をついに認めた彼女を目を見ると……私が長年抑え込んできた想いが怒涛の如く溢れかえった。「アニンはどうなの……」

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