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ロイヤル・ピン|第二十四章 沈黙【限定公開】



第二十四章

沈黙


「良いのですか、レディ・ピン」


 場所は松宮殿の一室であるイギリス風の台盤所。その部屋の中央にある長テーブル上でチョコレートケーキを作る為に、テーブルいっぱいに敷き詰められた調理器具を両手に忙しそうにしているピンにプリックが声をかけた。


「何が良いのかしら……」ピンの顔には今、菓子用の粉が顔にこびり付いていて、愛らしく見える。彼女は目の端でプリックを捉え、さらにもう一つ問うた。「そして何が良くないのかしら……」


「それは……そのレディ・ピンが、グア様から数ヶ月前に貰ったお菓子に関する本を松宮殿の台盤所のど真ん中でかっぴらいていることが良くないのでは、と……」プリックは深い溜め息を吐き出し、頭を左右に振る。「もし、アニン王女に知られでもしたら……」


「プリック! しいぃぃ」


 現在、アニン王女は前翼宮へ赴き、アリサー妃と共にお食事を取られている。だから、松宮にはいない。そんなことは露知らず、という訳でもなく、ピンもそのことは知っていたのだが、プリックがそう発言すると整った唇に人差し指を当て、プリックに静かにするような合図を送る。


「だって、私は洋菓子作りが得意ではないんだから仕方ないじゃない、プリック。だから、本の通りにやらなきゃいけない訳だし。それに最も大事なのはグアさんの本にしか、チョコレートケーキの作り方が載っていないという事……」


「それはそうですが……」プリックの焦げ茶色の目には心配の光がまだ見える。「アニン王女はあまりグア様をお好きでは無いみたいですし……」


「もし、プリックが言わなければ……私も言わない」ピンは甘く可愛らしい視線をプリックに送る。このようなものを自分の目で見ることが出来るほど前世で徳を積んでいたのかと、プリックは少し驚いた。「もし、そうであればどのようにしてアニン王女がこの話を知ることが出来るのかしら」


「いずれにせよ……私めは気が気でないのですよ、レディ・ピン」

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