第三十八章
立てば芍薬座れば牡丹
『ああ、心よ心。雲よりも上の世界にいる、神々しく美しい天使たちのような、あるいは夜闇を切り裂く、一筋の光を放つ満月のような存在よ。その輝きは一寸の淀みもなく眩しく、その眼は稀に出くわす金色の鹿を思わせ、眉は弧を描く弓のように美しく、天で舞うキンナリンを模したような小さな身体と腰付き――すべてが麗しく……』
金銀の刺繍が施された紺色のパトゥンに、肌の色を際立たせる臙脂色のパテープ。その上には装飾品を身に纏い、整えられた髪には石斛の花が飾られ、頬も活き活きとしている。その完璧な風貌に、束ねられた髪の房から時折、一糸が垂れ落ちて、彼女の美しさに拍車をかける。そんなウアンファーの姿を見て、プリックはアニン王女に教科書を見せてもらいながら教えてもらった、詩人ブッサパーが詠んだとされる美しさを讃える詩を思い出していた。
美しい模様が刻まれたチャオファー邸のダークウッドを背景に、ウアンファーが見せる立ち振る舞いに、プリックは感服せざるを得なかった。バンコクで見たウアンファーの姿は仮の姿であり、ここチェンマイで見た彼女こそが真の姿だと言われた方が納得できてしまうほど、その違いは明らかだった。
「あの、ウアン様」プリックは膝頭でいざりながら、高座(タン)に腰かけているウアンファーに話しかけた。彼女は周りの使用人と一緒にお供え物を作っているところだ。その高座(タン)は人工物ではなく、豪邸の中庭のちょうど中心に自然発生的に生じたもので、彼女の完成された見た目と相まって神秘的な光景が展開されていた。「ラーム王子がお見えになります」
プリックは話しかけながら、ウアンファーの美しい顔をじっくりと眺め、改めて敬服した。眉は程よい半円を描き、日の光が当たると薄茶色に変わる丸い目は、ふと気付いた時には周りの視線を奪っている。鼻は小さく筋が通っており、口元は妖艶でありながら健康的な桃色を帯びている。その顔は、美しいという言葉以外に形容しようがなかった。
その美しさは、アニンラパット王女が放つ圧倒的な存在感による絶対的な美しさや、レディ・ピランティタの持つ甘い蜂蜜のような可愛らしい美しさとは全く異なるものだった。もし世の中の男性がウアンファーちゃんの美しさの毒牙にかかってしまえば、アニン王女やピンが持つような魅力の沼から『抜け出せなくなる』ことは容易に想像できるだろう。
「どうしてプリックが私に伝えに来ることになったのかしら。この場所の使用人たちは一体どこへ行っているのかしらね。お客様の使用人に呼びに来させるなんて......」